マインド・生き方  ·  2026.07.11

AIに奪われる仕事を、子どもが「それでも目指す」と言ったら【面接官ノート】

AIに奪われる仕事を、子どもが「それでも目指す」と言ったら【面接官ノート】

先日、ある選考で高校生の面接官を務めました。毎年、担わせていただいている任務です。

今年の課題は、AI時代のキャリアと大学進学の動機・目的を真正面から問うものでした。今年も100名以上の生徒と向き合いました。そこで出会ったひとりの生徒をこの記事として、面接官として感じたことを、5回のシリーズとして書いていきます。

これからの生き方、子育てと教育、そしてお子さんのキャリアを考えるうえでの、ひとつの視点になれば幸いです。

目標の入り口は、それでいい

ある生徒がいました。彼女は、薬剤師になりたいと語りました。

今回の課題である経済産業省の資料「2040年の就業構造推計」を読み解きながら、彼女はこう述べました。「薬剤師は、AIに取って代わられる仕事だと言われています」。そのうえで、「それでも、AIと共存し、患者さんにわかりやすく処方する薬剤師を目指します」と続けたのです。

目標を持ったきっかけは、親戚に薬剤師がいて、その姿に憧れてきたことだと言います。

私は、この「憧れ」から始まる進路を、少しも否定しません。面接官としては、動機の内容そのものは評価対象ではなく、事前に示された基準に沿って、論理的思考などを他の生徒と同一の基準で採点しました。

身近な誰かの姿に心を動かされ、「私もああなりたい」と思う。進路の多くは、そうしたまっすぐな憧れから始まります。医師の家系から医師が生まれ、経営者の子が経営者を志す。決して珍しいことではありません。

ただ、採点基準のシートから視点を外し、面接官という立場を離れてひとりの大人として彼女を見たとき、別の問いが浮かびました。

彼女が憧れている「親戚の薬剤師の姿」と、彼女が14年後になるであろう「これからの薬剤師の姿」とでは、担う役割も、働く本人の感覚も、ずいぶん違うのではないか。そう想像しながら、私は話を聞いていました。

「憧れの姿」と「なるであろう姿」のあいだ

この選考の4日後、AIのClaudeが創薬の分野に本格的に参入するというニュースが、私のタイムラインに流れてきました。

薬を生み出すプロセスそのものに、AIが入ってくる時代です。彼女は確かに「薬剤師はAIに取って代わられる」と語っていました。その言葉の4日後に、このニュースが私の目に触れたのです(なので、今こうやって書いています)。

彼女は高校生なので、いまは日々の勉強に集中しているでしょう。それでも、この展開の速さを知ったとき、彼女なら何を思うだろうか。今後の学びがどう変わるか。身につけるべきスキルがどうなるか。そう思わずにはいられませんでした。

薬の知識を持つこと。成分を調べ、照合すること。調合を思案し、間違いを防ぐこと。薬剤師が担ってきたこれらの役割は、AIのほうがより速く、より正確に果たすようになっていくと考えられます。必要とされる人的リソースは減り、処遇のあり方も変わっていくかもしれません。

では、人間の薬剤師に最後まで残る役割とは何か。

彼女自身も「人と向き合う力」を挙げていました。不安を抱えた患者さんの表情を読み取ること。安心してもらうこと。しかし社会は、彼女が想定しているよりも速く動いていくのだろうと、私は感じています。

少なくとも、彼女が小学生の頃に目指し始めた薬剤師と、これから彼女がなるべき薬剤師とでは、求められる職能が大きく異なるはずです。親戚の方が現役だった頃とは、必要とされるものが変わる。それは、もはや確定した未来だと言ってよいでしょう。

環境は揺れる。だから根っこがいる

ここに、私がいちばん伝えたいことがあります。

目指す職業の「中身」が、これほど激しく変わっていく時代です。憧れた頃の姿と、実際にその職に就く頃の姿が、まるで別物になっていることさえあります。

そうなったとき、その人のキャリア観を支えるものは何か。

彼女の場合であれば、なぜ薬剤師なのか、という問いです。薬を渡したいのか。人の不安に寄り添いたいのか。誰かの暮らしを支えたいのか。

その「根っこ」がはっきりしている人は、環境が変わっても、その時々の形や仕事に合わせて自らを変化させていくことができます。折れません。「薬剤師」という職業名にこだわらず、「人の不安に寄り添い、回復を届ける」という軸を保ったまま、別の道を選び直すこともできるのです。

やり方が変わっただけだと受け止めて、また歩き出せる。

一方で、「親戚のようになる」という姿かたちの目標や、いまの時代の待遇・地位を基準にしてしまうと、その姿が時代と合わなくなった瞬間に、「思っていたのと違う」と諦めてしまいかねません。

諦めること自体は、ひとつのプロセスですから、それでよいのです。ただし、そもそもの動機が親の期待や社会の価値観から生まれたものであった場合、本人が這い上がる力は弱まります。

親にできること

これは、薬剤師を目指す子に限った話ではありません。いま子どもたちが選ぼうとしている仕事の多くが、10年後には形を変えています。

ですから私は、わが子が何か(What)に憧れたとき、その憧れを応援すると同時に、こんなふうに一緒に掘っていきたいと考えています。

表面的な職業名ではなく、その奥にある「なぜ」と「どのように」を、本人が自分の言葉にできるように。

変化を恐れない柔軟さと、自分の根っこに嘘をつかないこと。そして親である私自身も、「何か」を押し付けないこと。

変革する時代を、自分の足で、道を変えながら歩いていくために。そんな変容の練習を重ねていきたいと思います。

あの生徒が10年後、AIを使いこなしながら、誰かの不安にそっと寄り添える薬剤師になっていますように。あるいは、まったく別の仕事で輝いていますように。

その未来がいまに根づいているとすれば、それは、いまの彼女が自分の根っこと心をどれだけ深く知っているか、にかかっているのだと思うのです。

東江亜季子
東江亜季子 / Akko
沖縄生まれ、元琉球新報記者。教育・越境・子育てをテーマに書いています。
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